MZR

Sanda, Hyogo/May. 2003
 180センチ以上ある大柄な男性とお腹の大きな女性が、新しく購入した集合住宅の図面とパンフレット、それとCADで書かれた改装計画案の図面を持って来た。この2人、海外生活が長く、2人が知り合ったのも上海。偶然にも我々が上海で働いていた時期と重なっている。話をしていると価値観が普通とはどうも違う。いや、面白いという方が適切か。この少し面白い価値観の2人に提案されていた改装計画案は、カタログから選んだ品々の集合体。この2人にそれは当てはまらなかった。
 女性は出産を控え、数ヶ月後には実家に戻る。男性は実家に身を置き、当座の住処は確保されている。新しく増える家族の事や旨いモノの話し、それぞれの仕事の話、海外での生活のハプニングなど。それらの会話の中から2人の普通とは違う価値観を読み解く。
 購入した住まいは、1993年に建てられた75平米の3LDK。神戸の北 三田市にある巨大な集合住宅の南端。住戸の三方が外部に面している。ぐるりと囲むバルコニーに出ると六甲の山の北斜面の手前に広大な田んぼが広がっている。数十分おきに走る電車もどこか懐かしく感じる風景だ。四季折々の風が香りと音を運んでくるに違いない。それを取り込みたい。
 子供をどう育てるか。これが今回の改装計画で1番重要なカギとなった。それぞれの生い立ちについて話し、色々な事例を挙げ検討し導き出した。子供に閉ざされた空間を提供するのではなく、スペースを与える。空間を共有し、思いやりやデリカシーという見えない扉でそれぞれのプライベートを確保する。もともと3LDKだった間取りを大きく2つのゾーンに分ける。プライベートなゾーン、パブリックなゾーン。さらにそれぞれのゾーンを家具の配置により使い分ける。
 来客がある時でも同じゾーンに子供を置き、子供に家族以外の目も向けて育てる。このパブリックなゾーンは、子供にとって小さな社会となる。早くから子供に社会性を身につける事を望んだ2人の選択は、1LDK。
 使用する素材は、上海に居た時に購入した大きな中国家具にあわせ、少し濃いめの床材、クリーム色の石、黒い石、深緑の石、白い壁。異なった素材がぶつかりあう所の目地を通し、だだっ広い空間に適度な緊張感を与える。
 この家を購入した動機は、窓から見えた夕日に照らされた野焼きの煙りが美しかったからだそうだ。窓から見える景色は、変える事が出来ない。その選択は正解なのかもしれない。全ての部屋からこの風景を存分に楽しめるように考えている。それは、もちろん浴室からもだ。
 6ヶ月後に新しい家族とともに浸かる湯船から見える景色は、少し靄の掛かった一面に広がる雨の水田か。たまに顔を出す青い空に急旋回するツバメか。どこか南方の遠い国に来たような錯覚に陥る。
Photography:S.Yamashita

 

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