NKU

Kobe, Hyogo/Sep. 2017
 ようやく涼しくなってきた秋口、神戸の知的障害者施設からこの施設の人たちが描いた作品を展示するアールブリュットの会場デザインをしてもらえないかと依頼が舞い込む。 開催の日時と総予算を聞いて流石に10日後に迫る会期と驚くほどの低予算に断るつもりだった。 しかし、せっかくの依頼、電話口で断るのも失礼かと思い一応会場となる元銭湯 くすのき湯 の見学と描かれた作品を見に行くことに。そして、その場で丁重に断るつもりだった。
 2015年まで半世紀地域の人たちを温めてきた長田の元銭湯は、番台から脱衣棚、浴室との境の熱帯魚のエッチングガラスまで全てそのまま残っている。高い天井に設けられたハイサイドライトからは、柔らかい光がそれらをやさしく包み込む。現場を確認したその脚で施設に向かい作品を見せてもらうことに。そして、心を奪われた。怒る感情を持たない彼が描いた画は、技法を凝らしたものでも奇をてらったものでもない。商業的な匂いも何もないこの作品をどれだけ引き立てられるか、その背景をなんとか実現したいと一瞬で心を突き動かされてしまった。
 その思いを強く知り合いの材木屋さんに語り端材を提供してもらい、古い付き合いの大工さんに予定を調整してもらい、そして会期前々日に見事に完成した。
 人の心を動かすものは、それを作成する人の強い想いだと改めて実感するいい経験だった。
そして、その後見覚えのある不在届の差出人に何が届いたのか全く予想していなかった。ちょうど、いやもう一年も前のことだから。
 その包みを開けて出てきたのは、あの時の木の香りと蘇る記憶。いやいや、驚いた。展示パネルに使用したロシアンバーチに絵を直接描きそれをレーザー加工し、あの時一気に力を集結したエネルギーがそのまま箱詰めされ保存されている。とても後味のいいものを受け取った。
Photography:S.Yamashita

 

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