NSH

Kyoto, Kyoto/Mar. 2002
 京都の北西、桜が美しい平野神社のそばに計画敷地はある。間口4.5m奥行き18mの南北に細長い敷地に、大正生まれの母とその娘が暮らす延べ面積18坪の家を計画。
 手芸を教えているクライアントは、日常生活の隅々にまで心を配り、シンプルで楽しい生活を望んでいた。それは丁寧に使われた家具や日頃使う道具や食器が、まるでそれぞれの住所が番地まで振られているかのようにまさに、あるべきところにあるべき姿できちんと収まっているのを見るとよく分かる。
 建物は、コンパクトにまとめ上げることにした。それは、比較的小柄な二人の女性が暮らすにあたって必要以上に大きな建物だと、これから先、建物を含め生活を維持していくのに負担になると考えたからだ。そして、これまで持ち合わせている家具や食器や全ての物と同様に、新しく買い足す物にも全て番地まで振られることが分かっていたからだ。その番地さえきちんと事前に決めておけば無駄に大きなスペースは必要はない。まさに身の丈にあった生活が十分出来る。
 設計に取りかかり最初に行ったのは、今ある家具や生活の道具で新しい家に持って行く予定の物、新しく買い替える物、それは、家具、仏壇、掃除機、洗濯機等の家電から食器、調理道具、カトラリー、そして服の枚数に至るまで全てを採寸し、それら全てをどこにどのように仕舞うかを決定した。まさに全てに番地を振ることだった。
 この計画では、廊下で各部屋を結ぶのではなく、部屋の使われ方や性質に着目し部屋を配置する事と周辺建物に影響される事のない外部空間を敷地内に確保し内部空間の質を高める事を提案した。そしてさらにこの2つを結びつける事を試みた。
 建物は、異なる植栽を施した3つの庭とアクティビティーを伴う2つのテラスを部屋と部屋の間に配置し、全ての部屋でそれら外部空間を含めた利用が出来る様にしている。丁度ノコギリの刃の様に外部と内部が噛み合っている。1階を日常生活の場、2階を手芸教室や来客の場とし、玄関近くに階段を設けることにより、異なった2つの動線を完全に分けている。
 ごく一般的な生活を行うには、18坪という延べ面積は小さいかもしれない。しかしそれに噛み合わされた外部空間は、単純に建物の面積に付加されるだけではない。生活に必要なものを必要な時に丁寧に使う。それは、道具だけでなく家全体においても同じこと。この家で日常使わない部屋はない。これこそが本当のシンプルライフなのかもしれない。
Photography:Y.Kinumaki

 

-->