SAH

Nishinomiya, Hyogo/Feb. 2014
 犬を飼い始めてからもう14年が過ぎるが、これまで殆ど医者要らずで過ごしてきた。滅多に行く機会はないのだが、どうも動物病院は苦手だった。一種独特の雰囲気がある。ノミだのダニだのがクローズアップされた不気味な写真や、予防接種だなんだと様々な種類の案内が所狭しと貼られ、それに動物臭だと思われる匂いが付け加えられるともうダメだ。どうも落ち着かない。  夙川のほとり、阪神電鉄の香櫨園駅側にある動物病院が目と鼻の先、徒歩3分の所に移転する事になった。移転先の元鮨屋の建物は、コンクリート打ち放し仕上げの独特な外観。此処に、独特の雰囲気を排除した居心地の良い動物病院を造る。
 目指しているのは、具合が悪くなくても定期的に訪れたくなる動物病院だ。
 病院内のゾーンは、大きく分けて3つ。患者が待つところ、診察を行うところ、それと検査、手術等を行うところだ。検査、手術等を行うところは、基本的に病院関係者しか使用することはない。その他の部分に関しての要望は、2種類に分けられる。一つは、動物の習性、本能に基づく行動に依ること。もう一つは、飼い主の行動に依ることだ。
 動物は、当たり前だが人間の常識では行動しない。躾と本能で行動するのだが、皆一様な躾がなされているわけではない。それを踏まえて、様々なアイディアを様々な形で病院全体に盛り込んでいく。
 匂いの問題も動物臭の発生量を考慮した計画換気を施し、メンテナンスと清掃のしやすさを念頭において各部屋の仕上げ、ディテールを慎重に決定すれば、解決できる。
 しかし、建物本体のハード部分だけでは、目指していることは出来ない。イメージカラーを決め、ロゴマークを決め、各部屋の置物や備品の選定をし、看板、診察券、問診票、薬袋、ホームページに至るまで総合的に関わることでバランスを保ち、居心地が良い空間を実現出来るのだと思う。
 人と動物が共に過ごす時間が大切で、かけがえの無いものであると考えるドクターは、単に治療だけを目的とした病院ではなく、予防医療の重要性を説いている。それが積極的に行える居心地の良い病院で、地域に密着したホームドクターを目指して今日も奮闘している。
 建物の外壁に取り付けられた家型のオブジェは、その想いを表している。
Photography:S.Yamashita

夙川動物病院
西宮市川西町8番18号
0798-33-3064

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